金属は湿っている/mizu K
 
ろんもう60年も前のことを話しても誰も見向きもせずただ私のまなこが
ときどき鈍く湿った金属のように8月のあのおぞましい光景を甦らせるのだ
喉が溶解してひっつくような熱い光と爆音、熱風、そして黒い雨
瓦礫のような集会所に逃げ込んだ人びとは
既にこの状況がただならぬものであることを察知してどこかおびえた目をしていた
その時、私の姉が突然産気づいてしまって
だれか、だれか!お医者さまはいませんか!だれか!
しばしの沈黙の後ひとりの初老が立ち上がり姉に近寄ったがふと私をじっと見た
君、ちょっと手を貸してはくれぬか
それから

ねえママ、ゲンバクってなに?
えーとね、ほらこの前愛知で
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