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三千世界の
鴉を殺して
主と朝寝が
してみたい

なんて都都逸が、たらいの上で爆弾のような饂飩粉玉を踏む
店主の口から漏れるほどに、朝から晩まで店の切り盛りに
追われる毎日が続いたが、
額を流れる汗が床に落ちたのにも気づかぬ亭主の
傍らでげそ天揚げながら、
そっと手拭を差し出したりして二人三脚で
なんだかポッといい気分になったりもした、女房はもういない

桜もカラスも舞わぬ錆び付いた夕暮れ過ぎて、
最後の常連客たちもそぞろ掃けた頃、表の看板の上で
しきりにぐつぐつと白い狼煙を吹き上げている
饂飩人形のスイッチを切り落とし、
店仕舞に掛かる段になって
小唄雑じりに下ろした暖簾をかいくぐり
真面目屋を訪ねる珍客の姿があった。娘のアフロ者であった


                        つづく。


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