真珠の館/蒸発王
 
一度で良いから
真珠の館に住んでみたい

というのは
我が家の小さな家蜘蛛が
梅雨時になると決まって呟く言葉だ


『真珠の館』

 
   漂白された空から降ってくる雨粒は
   存外に
   水飴のように甘味な
   甘美な滴なのですが
   何より紡いだ糸に絡まって
   美しい珠に代わるので
   女蜘蛛たるもの
   一生に一度は
   そんな真珠の館に住みたいと思うのですよ


見ると確かに
雨上がり
窓の外の垣根には
スレンダーな女郎蜘蛛が
大きな八角形の館を構えていて
館は
真珠の雨粒で豪華にあしらわれてあり
まるで王妃の頸
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