抑圧された記憶/はじめ
 
けた 貨物船のサイレンがけたましく港に鳴り響く 僕は煙草に火を付けてふぅー っと長い溜め息を吐いた 街は暗くなっていった 僕は泣いていた 大小様々なビルのテールランプが点滅する 寒さがジャンパーの襟をしぼめさせた
 辺りが真っ暗になって 激しく泣く僕は煙草の煙でむせ込んで鼻水を地面に垂らした 刑務所で擦り切れるほど思い出した彼女との思い出 走馬燈のように蘇ってくる 僕が殺したんだ 僕が殺したんだ フェンスに両拳をどんどんと叩きつけて僕は泣き崩れた 彼女の笑みが目に浮かび 現実がごぉ と鳴っていた 僕は孤独の檻に入れられた気分になっていた 僕は力無く立ち上がり 今夜泊まるカプセルホテルを探した ベッドの中で僕は絶えず色褪せた彼女との思い出を思い出していた 僕は涙を堪えて今も消えない後悔の波が引いていつかぐっすりと眠られる時が来ることを願って瞳を閉じた
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