東京無音日記/はらだまさる
 

東京、ぼくの見た東京
髪や服に滲みついた煙草と、酒と青春と


01/06/2007
イヤフォンは四六時中、質問を繰り返す
だから答えばかり眺めている
きみのいないところで
間違いようのない夜が京都駅八条口には溢れていて
十年前も、きっと同じ夜を舌で味わう
首筋や背中は少し汗ばんで
地面にしゃがみ込んで見上げる世界は
はじめて舐めた女の肌の温度でゆれていて
きみのいないところで
安物の赤いビニールのジャンパーや湿気た座席の黴の匂い、
テールランプの赤と、対向車のヘッドライトの
人々の夜と、窓のカーテンを突き刺す音だけを聴いて
インド綿の布を身体に巻きつけて

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