六月の薔薇/石瀬琳々
五月は過ぎた
麗らかで活発だった季節は
あれほど気ままだったお前も
今ではわたしの膝の上で大人しく眠る
お前のやわらかな耳たぶに降る雨に
こうして一緒に濡れそぼりながら
お前は聞いているだろうか
雨の音を それとも森陰から響く
お前が逃した鳥の声を
もう樹々が鬱蒼(うっそう)と生い茂って
鳥を見つける事は出来ない
だから こうしてじっとしていて
雨の音をそっと聞くのだよ
そっと雫の滴りを聞くのだよ
お前の指先に咲こうとしている
汚れの知らない薔薇の花
夏の雨に濡れて明るく輝くだろう
世界はこんなに美しいと
だから こうしてじっとしていて
こうして耳を傾けていて
やわらかな耳たぶにひそと降る雨は
お前を揺り動かしやさしく満たすだろう
やがて咲かせるいくつもの蕾のために
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