夏に澱む時間/あずみの
部屋にかかったカレンダーは
どれもあの夏でとまったまま
色あせて端が少しめくれて
蛍光ペンで記された丸印が
日に焼けてかすかに残りそれも
何の記しなのかはもう不明で
思い出す空気はあのときの
湿度の低い高い空と
ゆらゆらと路面で揺れていた陽炎
遠くで聞こえる子供の甲高い声と
やけに耳に残る蝉の羽音
寝転がった畳の目の
ひとつひとつまで鮮明に蘇り
それなのに
一緒に過ごしたはずの友人の顔は
もうぼんやりと霞んでしまった
あれから幾度か季節は巡り
色あせたカレンダーは取り外され
古ぼけた壁にはうっすらと跡が残っていた
わたしが最後の季節を過ごした部屋はもう
この世には、ない
わたしの記憶はあの季節で止まったまま
今年もまた夏を迎える
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