音楽について/佐々宝砂
 
夕暮れの音楽室で
ピアノを弾いた

平穏で無難な和音

誰がつくりあげるとしても
たとえばそれが夕暮れのサイレンだとしても
F#はF#にかわりはなくて
壁からみおろしている楽聖だって
無難な和音を使わないわけにはいかなくて
ディミニッシュ・コードばかりでは
世の中はうまくたちゆかなくて

だから面倒だけどもういちど根気よくバイエルからおさらいしているの

単純で退屈なアルペジオが
私の指からこぼれて

どこか遠い地下室の
貴方には聞こえない交響楽の
最後の余韻に合流する



Pakiene名義の過去作


戻る   Point(4)