足音/池中茉莉花
 
おじいちゃん

炒めるつもりも まるでなく
ただただ あなたが 刻みつくした
玉ねぎ一家から 飛び散った
汁の残霧が わたしの目にも ちょっとだけ しみます

でも、わたしは あなたが まな板の上に のせようともしなかった
ただ一人の 家族です

あなたがあんな 嗜癖の渦に 飲み込まれてしまったのは
あの「足音」のせいでは ないのですか

    70年前あなたの耳に「足音」がきこえた
    「聞こえる 聞こえる」
    街の中を 叫びながら さまよった
    医者が来ればいいものを
    来たのは憲兵たちだった
    彼らは あなたの爪の隙間に一本一
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