柩の音/をゝさわ英幸
 
のだった。

隧道を出ると、左側に水辺があり、黒光る線が大樹に絡みつづけていた。
風は叫びをやめて、水面に映った大樹の奥で憩うている。

水辺の大樹を仰ぎつつ、森に踏み入ると、全てが、黒い線の絡まった、樹々の集まりであった。森の上に空は見えず、ただ羽根が、黒光りしながら、時折舞い落ちるだけであった。
羽根の欠けた所からは、仄かに光が漏れるだろうかと思われたが、忽ち黒い糸によって縫いつけられてしまった。

先の判ぜぬ、その隧道のような森は、永遠に続くのだろうかと思われた時、私は旅を始める男と擦れ違い、「どこへ?」と問うたが、男は不思議そうにこちらを見ているだけであった。以前、同じような光景に、でくわしただろうかとも考えたが、どことなく違うようにも思われた。
そして気がつくと、いつとも無く、大工の釘打つ音が響いているのだった。

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