必衰/岡部淳太郎
ことしもまた春が来て
暖かくなって
やがては暑くなる
またしても
煩い季節になりつつある
驕れる者 久しからず
正しきも
疚しきも
また同じ
そんな世捨て人のようなことを
つぶやきながら 丘を上る
だが 歩きながら
どんな種類の花にも会うことがない
とはどういうことか
野に咲く花の名前など
ほとんど知らないというのに
沙羅双樹の花の色とは
どんな色か
そんなことを思いながら
歩きつづけている
暖かい
いや 暑いのか
汗が吹き出てくる
生は常に上り坂だ
虫が舞い
鳥が飛び
人々の顔色も
病的なまでに華やかになって
空の青さは
濁りなが
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