新しい魂/草野春心
ある朝Aが目覚めると、木製のテーブルの上に竹籠が置いてあり、その籠一杯に林檎の果実がどっさり詰まっていた。前の晩には何も置かれていなかった。ただ一面の空白意外には、何も。
全体さっぱり分からなかった。カーテンを開けたAは、世界が変わらず朝を迎えていることにむしろ腰を抜かした。相変わらずそこはマンションの二階で、部屋は東向きで、申し訳程度のベランダと、沈黙を蓄えたサボテンの鉢と、見下ろした小さな公園も、やはり元のままだった。
*
男は信じていた。昨日までの自分。昨日までの世界。昨日読んだ新聞の内容、見たテレビの画像、食べたチーズバーガーの味。いらだちとよろこびに彩られた
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