うさぎ/ヨルノテガム
 
乗り遅れた改札口の駅の階段近く
女が飛び跳ねて暮らしていた
美味しいスパゲッティーの話をして
混ぜ合うところのフライパンごと食べちゃいそうなくらい
あっという間に平らげましたのよ、と口の周り赤いまま言う
遠くで、まだ新聞配達の音もするから夜中に食べたのだろう
夜食というのは空腹感を重ねるとますます魅力を備えるものですな、
と言うとすると女は眠り出して力を失い、ぐったりと固まり
白い羽を生やして、くるまりだした 何だかさっきより少し若返って見えて
美しい素足の足先からニューッとこちらの旅行カバンに入って来て
電車に乗れ、と足指で指示した それはあまりに静かな一瞬で
重さは軽く、カバンの中のスペースに余裕があったのは至極当然のように思われた
電車に乗り込む間際、無人のホームヘ一人きりの降客が
すれ違いざま「ご自由に」とこちらに声をかけてきてギョッと振り返ると、
その後ろ姿は立派な紳士風で見たこともなく2,3歩進んだ所で
すっと止まり全く固まって見えた








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