蛇口のひねり方を忘れた/カンチェルスキス
 








 曇天の風のない日
 窓の向こう
 歪んで映った一本の線は
 確かに電線で
 姿も見えないのに
 鳥の声が聞こえる
 洗面所の水道が止まらない
 蛇口のひねり方を忘れた
 おれは立ち去れずにいる
 洗面所の前で
 数え切れないほどの瞬間の生き死に
 水道の音が
 解像度を増して
 おれの頭の中で鳴り響く
 おれの頭は水道を音だけ
 吸い取って
 何物にも変換しない
 水の落下とだけ
 ある目の前は
 水の落下
 音に溺れるみたいに
 おれは立ち去れずにいる
 蛇口のひねり方を忘れた
 排水口に流れた髪の毛は
 おれがなくした

 






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