汚れた庭球 /服部 剛
 
森に架かった木の橋に 
父は手にしたカメラを構え 
木漏れ日と葉陰の揺れる袂(たもと)に立つ 
妻と娘をレンズ越しに覗いた 

シャッターを押した後 
肩を並べた三人の後ろ姿は 
森の出口に姿を消した 

橋の袂から 
汚れた庭球(テニスボール)を手にした 
初老の男がひとり歩いてくる 
近づくほどに大きくなる白い顎鬚(あごひげ)の顔は  
薄ら哂(わら)いを浮かべたまま 
足音も無く通り過ぎ 
長方形の朧(おぼろ)な背中は 
森の中へ 
吸い込まれていった 




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