あの緑陰に/石瀬琳々
あの緑陰に佇んでみたものは
光るまちだったのか 雲の流れになぞらえ
かすかに形を変えてゆく思いなのか
今はもう分からない黄昏に包まれる
やるせない影ばかりがのびて 路に夕べに
項垂れてはいけない
目を閉じてはいけない
だから強く手を握って
だから強く唇を噛んで
このままじっとしていれば
すべて通り過ぎると信じ
あの緑陰に佇んで一人みたものは
夏の初めの水色の空 憂いを帯びて
まちはゆるやかに動きを止めた鳥のつばさ
ただ風の訪れを待ちわびていた肩越し
頬を撫でるやさしい指先を 焦がれて夕べに
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