薔薇と蝿/服部 剛
 
 一匹の蝿(ハエ)は 
 羽を毟(むし)られたまま 
 今日も曇天の街を漂う 

 迷い込んだ森の裡(うち)で 
 湿った草の茂みに囲まれ 
 一輪の薔薇が咲いていた 

 開いた唇からこぼれる 
 声無き唄声 

 うっすらと運ばれる 
 風の薫り 

 茎に透きとおってゆく 
 無数の棘 

 ( 羽の無いわたしの背中は 
 ( 遠く置き忘れた熱情に 
 ( もどかしく、疼(うず)いた 

 -----そして 

    茂みの闇に咲く薔薇を 
    いつまでも、蝿は眺めていた 
    撓(しな)った草の先端にとまり 
    夜風に身を、揺らしながら 







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