幻視顕微鏡/嘉野千尋
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春の終わり、
野バラの咲く季節にだけ届く手紙を、
水色の夜空に透かしてみると
さようなら、また来年
とだけ書いてありました。
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月が三つ並んで出ていた晩に、
あれが本物、と言って
右端の月を指差したら、
左端の月は太陽になって、
慌てて西の方へ落ちていきました。
真ん中の月はそれ以来行方不明です。
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理科準備室の棚の奥、
秘密の扉の向こうにしまって
Y先生がこっそり大切にしている
顕微鏡を覗きに行ったはずのK君は
何を視たのか決して教えてくれませんでした。
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