幻視顕微鏡/嘉野千尋
 
  *

  春の終わり、
  野バラの咲く季節にだけ届く手紙を、
  水色の夜空に透かしてみると
  さようなら、また来年
  とだけ書いてありました。

  *

  月が三つ並んで出ていた晩に、
  あれが本物、と言って
  右端の月を指差したら、
  左端の月は太陽になって、
  慌てて西の方へ落ちていきました。
  真ん中の月はそれ以来行方不明です。

  *

  理科準備室の棚の奥、
  秘密の扉の向こうにしまって
  Y先生がこっそり大切にしている
  顕微鏡を覗きに行ったはずのK君は
  何を視たのか決して教えてくれませんでした。




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