春憬/朝原 凪人
一
春をあげるよ
ツバキの葉にうっすら積もった春を
人差し指でそっと集めて貴方に
栞にしてみてはどうだろう
本を開くたび春の匂いが漂うように
カーテンにしてみるのもいいかもね
朝陽を透かして部屋が春色に染まるように
冬が嫌いな貴方に届けます
二
「かえしてくださいよう。かえしてくださいよう」
さっきからツバキが煩く喚くんだ
「冬の風が凍みるのです。かえしてくださいよう」
寒さこそお前を咲かせるために必要なのに
冬こそお前が映える季節なのに
春は既にお前の中にあるというのに
それでも春を望のか
なあ、椿よ
戻る 編 削 Point(8)