「 人魚の涙。 」/PULL.
に見せてくれるのだった。
あんなにきれいな涙を、
あたしは他に見たことがない。
だから、
あたしは、
あたしの涙よりも、
イチコの涙が好きだった。
五。
彼が好きだった。
そう。
だから、
あたしがはじめって付き合った彼を、
イチコが奪った時。
イチコは、
ごめんねごめんねと、
いつものように泣きじゃくった。
あたしはイチコをひっぱたくことも出来ず、
ただじっと、
イチコを見ていた。
イチコの大きな目からは、
またいつものようにぽろぽろと、
涙がこぼれて落ちて彼の部屋の床に黒い染みを、
てんてんと、
作った。
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