*浮き島/チグトセ
 
た顔を上げた。どうやら戦闘は終わってしまったみたいだ。僕は脱力して笑った。横隔膜から直接笑いがこみ上げてきた。
「……なあ、寺内、俺さあ……シノの意志を尊重するのをうっかり忘れてたわ……」
寺内は、おそらくだが、そうかよ、と呟いた。しばらく時間が流れた。プロペラの音は次第に遠ざかり、間もなくカラスの鳴き声に変わった。日が暮れる。やがて、サラリーマンがむっくりと起き上がり、束の間ぐるりをいかにも事務的にきょろきょろと見回した。そうしたあと、革の鞄の表面を二、三度払って立ち上がり、そのまま歩いて神社を出て行った。世界は三人になった。
「なあ、寺内、結局さ、象ってどういう意味だったの?」と僕は訊いた。寺内はうなだれたまま、意味なんかねえよ、と答えた。
「マジかよ……」
日が暮れる、そう、寺内は呟いた。僕はうなずいた。
ああ、そうだな。
そろそろ、帰ろうか。


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