岡部淳太郎 「夜、幽霊がすべっていった……」に想う /たりぽん(大理 奔)
っていく。すべらない、歩いていく人間の世界
として示されたものは「道」。
幽霊という姿を借りて、物語世界をすべっていった作者は結局、人間である
ことの恐怖、人間でないものへの恐怖を乗り越えて「道」の上に肉体の化身で
ある石を置きながら自らの足で歩いていくかのようだ。次々と覚醒する幽霊達
を鎮めるかのように。
夜は昼や朝の対立概念ではない。夜は常に体内に仕組まれた闇の名前だ。そ
れを孕むのが肉体でそこに住むのが幽霊だとすれば、作者は外界に見立てた
「夜」をさまよい、肉体の歩く「道」に続く「夜」を読者に示したのかも知れ
ない。
夜が重たいと感じるとき、それは幽霊を地縛する「夜」の重力。そしてとぼ
とぼと歩いていけ。さまようかのような遠い迷子の道を。
(文中敬称略)
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