家族カンバセイション (前編)/たたたろろろろ
「記憶喪失、」
真知子は確認するように、しかし断定形で言った。
「ええ。記憶喪失、されていますね。息子さんは」
担当の医者である小野は、一度ちらと真知子の隣に寝そべっている壮太を見て、再び真知子に視線を戻し、気の毒に、という顔で続けた。
「といっても、通常の、皆さん想像されるような記憶喪失とは少々性質が異なるのですが」
「どういうことですか?」
「ええ、非常に珍しい例なのですが」
精神科医の小野は、壮太の母である真知子に、息子の記憶喪失がどのようなものであるのかを神妙な面持ちで説明した。それは確かに、我々が通常、想像する記憶喪失とは異なったものであった。
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