私たちの欠落(夏の日の)/藤丘 香子
私たちは互いを必要としながら
それぞれの場所で夕陽を眺め
明日の湿度を欲しがり飲み込む振りをする
あなたと私は
埋もれてしまったいつかの夏に
栞を置いたままかもしれない
それでも私たちは真実を口にしない
私たちの日常には触れ合うことを拒む痛みがある
急な雨の日の窓硝子に反射する
輪郭のぼやけた
あなたかもしれない横顔を見ることがある
遠い夏の陽射しの
揺れの中に置いてきてしまった
あなた
かもしれない面影を
瞬きの合間に抱きしめることがある
波打つ躍動と純朴さに震えていた短い季節が
私たちの時間だったということを
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