ブルー・ノート/佐野権太
 
路地裏のちび猫は
突入する赤に
踏み出す肢を迷わせる
産み落とされた残り香
ずぶ濡れのステップ

行きずりのハーモニカ犬は
油のしみ込んだ木柱に
鼻先をふがふが押しあてる
かつて高く響いた
指笛の方角

チョーキングする黒い指
音楽が争いをなくすと信じていた頃の
擦り切れたジーンズ
絞りだされる金色の声紋
一番星の境界を震わせる

row row row
ルーズにはみだしても
手放せないものたち
狭い水路を漕いでゆけ

潰れてゆく太陽の叫び
踵(かかと)から伸びる水色の影
交ざりあって
溶けてゆけ

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