おてだま/ネクタイ
夕刻が過ぎても
遠くのほうで
夕焼け小焼け、と
歌っている声がきこえるので
カーテンの厚みに
紛れえ、紛れえ、と
こちらも
声には出さずに
歌い返した
遠くのほう
というのは
ほんとうの
遠くじゃないんだよ
と
毛布のなかにある
トンネルに
ぽつんと
飴玉をいれるようにして
つぶやいたら
もう
眠っている自分がいて
山の
鳥たちの
帰り道が
橙色にそまって
影絵のように
くろくもあって
ちいさな
こどもたちの運ぶ
かごのなかに
お嬢さんがいて
口の中が
橙色にそまって
影絵のように
くろくもあって
紛れえ、紛れえ、と
歌っている
声がきこえた
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