一人物語る悲しみを/さち
説明が出来ない
キッチンの片隅
気付かれないように
涙が流れた
想いは
こぼさないように
シンクの横に
そっと置いたまま
君の夕飯を作った
テレビに目をやりながら
明るい声で話し掛ける君に
当り障りの無い返事をした
想いは
こぼさないように
ほんの少しのきっかけに
不安定な心は転がり落ちて
食器の白が痛くて
キッチンから逃げ出した
見えない穴の中に向かって
持ちきれなくなった想いを
何を言ったらいいのか
どこへ向けたらいいのか
わからない言葉を
ただ
君に知られてはならない悲しみを
最後にはいつも
捨てきれず抱えつづける悲しみを
文字にうつして
引き出しにしまった
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