ロジウラノヴァ/藤原有絵
 
僕は振り返らないつもりだから
はぐれないようについてらっしゃい

迷路のような路地裏すいすいと
君はわたしを連れ去ろうとしている

銀色の猫とすれ違い
「にゃー」
は、どうやら「やぁ こんにちは」

爪先が赤く滲んできて

そんな靴履いてくるからだよ

そんなことはもっと早く言って

紙袋で顔のかくれた男性が
壁に身をつけて道を譲ってくれた
君はひらりと身体をくねらせ先へ行く
すれ違う時私はオレンジをひとついただいた

多分
このまま大通りに抜けるなんてことはなく
噂の隠れ家に着くのだろう

わたしは君に連れ去られている途中で
オレンジをそっと袖でこする

いい匂いがして
君がちょっとだけこちらをみた

隠れ家についたら
冷やさずこのまま
ペティナイフ(あるかしら)で
皮をそいで二人で食べるの

帰り道なんてきっと訊かない

わたし
連れ去れているのだから




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