山岳地帯(マリーノ超特急)/角田寿星
ひろがるのは見渡すかぎりの深いみど
り。人の立ち入ることを許さない暴力的な森が、生をどこまで
も謳歌するかのように、海からの風を受けてざわざわと波打つ。
いちめんのみどり、わずかなうねりは驚くほどにその色合いを
変え、幾億もの兎がみどりのうなばらを走り去っていく。
山岳地帯。ここはいちめんの森に浮かぶ孤島。
視界はこんなに広がっているというのに、海はどこにも見えな
い。
屹立する断崖を背に、わずかに広がる荒れ地をたどる。ばらば
らになった材木のかけら、不揃いに並べられた大小の四角い石、
それらはかつて人の住んだぼろ小屋の痕跡だということは、当
人でなければ判るすべもな
[次のページ]
[グループ]
戻る 編 削 Point(7)