キッシュ/なまねこ
こちらを向いて
すばやく首をかしげてみせる
どこかからパンとシチューのにおいがしていた
窓は開いたままだ
そうか
何かのキッシュかもしれない
それだけ考えるあいだに
鳥は窓に飛び込んで消えてしまっていた
ミルクと小麦のにおいのする窓を閉め
僕はもう一度
枕に頭をおとした
枕から風があふれだして
枕もとの
真っ白なメモ用紙がまた鳴った
くしゃ、くしゃ
薬のにおいがしみこんだ音だ
鳥が行ってしまった理由が
どうしてだかわかるような気がすると
メモ用紙を束ね
また鳴き出さないように机にしまいながら思った
枕がまた少しふくらみながら
キッシュのにおいを吸い込むのが見えた
パイ生地をこねる夢を見るかもしれない
戻る 編 削 Point(3)