雷雨に浮かぶ幻想/渡 ひろこ
さっきから閉めるのが緩かったのか
水道の蛇口からポタポタと
水滴の落ちる音が聞こえる
微熱のせいか身体がダルくて
息苦しい感じがする
数時間前に見せられた
エコーに映ったアメーバーのような
単細胞動物が
自分の中に生きづいているとは信じられない
時を刻む秒針の音だけが
やけに部屋に響いていく
こうしている間にも
細胞は分裂し増殖して
私の内なる領域を侵していくと思うと
居ても立ってもいられなくなる
煙草に火をつけ吸ってみたが
すぐに気分が悪くなり揉み消した
部屋全体の空気が
澱んで濁っている気がする
船酔いみたいにフラフラしなが
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