君の来ないアパート/藤原有絵
 
非常階段の隅っこに小さな灰皿
割とヘビィな銘柄の吸い殻
押し付けられて そのまま

残された抜け殻か それは

空気を震わせながらする呼吸は
僕の部屋ではやけに神聖な行為で
深く閉じた目蓋 そのまま

息が詰まる程の それは


ぼんやりと玄関の前に突っ立って
僕は動けなくなる
コンビニの袋がどさりと落ちて

扉に手をかける
冷たい指に注がれる視線だとか

三年経っても
少し緊張の混ざるこんにちはだとか

目覚めた夜更けの
亡霊みたいな泣き方

初めて会った瞬間の
無言の誰何
こじ開けた時の笑顔


君を破って小さくなったものが
この
[次のページ]
戻る   Point(6)