い/恋月 ぴの
地獄の沙汰どころか
こうやって生きているときから
と
あの人は言った
ひとと獣の違い
それは
困ったときに
頼れるものがあるかないか
思いとか信じるとかのことなの
そう尋ねた
わたしに
あのひとは寂しげに首を横に振った
困ったときに頼りになるのはね
魂を売ってでさえ欲しいと思うもの
ほかの誰かを貶めても手に入れたいものさ
そんなんじゃない
生きるためにはもっと大切なものが在るはずなのに
あの人は
そんなわたしに微笑んでくれて
何だか南の風が吹いてきた
ひとと獣の違い
それは
誰かのために涙を流せる優しさと
よく晴れた日の抜けるような眩しさと
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