嘘/かや
 
若草色のスカートの金具が
押さえられた背中に擦れて
小さな傷をつくる
心地良く冷たい 磨かれた床は
父だったのに

眠ったふりをして
扉に向けた工作鋏を
両手できつく握り直した
桜色の やわらかい毛布は
母だったのに

終電を待つホームでは
薄黄色く光る蛍光灯も
ペンキが剥げた柱も
駅名のプレートも フェンスも
みんなくるしい
解り合えるのは焼けた石と
錆びた線路で
思い出すのは紺色の制服
俯く真昼のひとりぼっち

月にも土にもなれやしないなら
降りる駅などどこにもないと
父にも母にも会えやしないなら
帰る部屋など必要ないと

揺らぐ夜空にぼんやりと
知り過ぎている嘘をついた



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