曼陀羅寺へ/たかぼ
のか 私は無愛想な老人に軽く
会釈しながら橋を渡り始めた や
っとたどり着ける そう思う安堵
感のかわりにしだいにつのってく
る不安 湖沼の霧の中をすすんで
ゆくにしたがって 私の胸は早鐘
のような音を立て始めた だがし
かし 橋は沼のほぼ中央で突然終
わっていた そこには小島はなく
ましてや寺もあるはずがなかった
そのとき全く突然に 私は悟った
私は既に曼陀羅寺に着いていたの
だ 湖沼 あぜ道 老人それら全
てが 曼陀羅寺なのだと そして
自分が曼陀羅寺の中心にいること
を鳥瞰した と同時に霧が急速に
消えていき 湖沼は枯渇した し
かしそこに湖底はなく 茫洋とし
た巨大な穴がひらいているのだっ
た 圧倒的な存在感に押しつぶさ
れそうな気がした そして穴の底
から浮かび上がってくる 甚大な
光り輝く球体を見た時 早鐘は胸
を裂かんばかりに鳴り響き 意識
はしだいに遠のいていくのだった
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