春の雨、森で/九谷夏紀
気にまとわれ
目を閉じれば
森に内包されたようで
画家が見せた
オフィーリアが
行く川の森と重なって
息吹きに溢れる静かな森を
ひそやかに息絶えて流れて行く
深い眠りへ続く川に
ゆるゆるとなびく長い髪
安息、なぞらえて残るのは安息
オフィーリアはほんとうに
息を吹き返さないのだろうか
その頬に春の雨露がひとしずく落ちて
密生した草木がくりかえし発生させる青臭いうるおいが
鼻孔から入って体内に届けば
川がこの森をぬけるころには
閉じたまぶたが開かれるだろうと
緑になぞらえ
春の森を行く
森が宿れば森を出よう
森に宿れば森に居よう
授かるままに
与えながら
時をあずけて
ここに
とどまる
戻る 編 削 Point(7)