春の雨、森で/九谷夏紀
 

春の雨が
細く断続的に降る
風が吹いて
竹の葉が軽い音をたててはじく
雨の音は
こまやかに落ちる
しまい込んでいた
奥底の溝に

いつの間にか濡れる
銀色の針のようなしたたかな雨に
芽吹いたばかりのやわらかな緑も
色を深めて
あの岩のようにただじっとされるがままになって
この景色に入り込もうか
ねずみ色の空は明るく
鳥がさえずるせいで
雨あがりを思い起こして
内面は気ぜわしく晴れる
水たまりでは水滴の波紋が円でつながり円を消し合い

雨は止みそうにない

山が煙る
生息するための循環は
あらゆる源泉であると
沈黙する山の
立ちこめる水蒸気に
[次のページ]
戻る   Point(7)