痛み/美砂
 
かなかった
黄色い歯をした歯科医と母親に誉められた  


十二歳
私は舌に腫瘍ができて、切り取らねばならなかった
「おお、これは珍しい、こんなに大きくなって」
「彼は大学病院のセンセイなのよ、だから、だいじょうぶよ」
看護婦は色めきだっていた。緑の顔面マスクのなか、私は舌だけをつきだして
手術は成功したが、その夜は一睡もできなかった
しかし私は、痛みがやわらいだ朝を、笑顔でむかえた


十七歳
眼球に注射される
生きてきたなかで、もっとも厭うべき瞬間だったが
私はやはり泣かなかった
もちろん、すでに、泣くべき年齢はすぎていたが


私はどれほどからだが痛んでも
泣くことはなかったのだ


あなたは笑うだろうか?
明かせぬほど年をとって、
ほら、
どこも痛くないのに、
こうして

涙がこぼれおちてゆくよ


あなたは知っているだろうか?
ぬぐっても、ぬぐっても
涙がこぼれおちてゆくよ



                    ※たぶん、2002年ころの詩

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