痛み/美砂
 
七歳
私は一人急な坂を自転車で転がりおちていった
あまりにも急だったので、ブレーキをかけたとたん
自転車ごとひっくりかえり、天地がさかさまになったと思ったら
膝からなめらかな血が、信じられないほど流れていた
私は泣かなかった 顔をしかめてはいたが、冷静だった
血の色は焼きつくようで  静けさ  背の高い草が風に揺れていた
あたたかな砂利のしきつめられた地面で長いことうずくまりながら
私は けして 泣かなかった


八歳
私はペンチで歯を四本抜かれた。麻酔はなかった。
歯科医の手が私の頭の上をいったりきたり 彼は全体重をペンチにかけた 
泣かなかった うめいたが
泣かな
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