新茶の季節<散文編>/佐々宝砂
場でバイトしたので、私の家には、いまスーパーのでっかい袋いっぱいのフワがある。「持ってけやー」というのでもらってきた。新茶の季節には毎年フワを飲む。まずくはないがたいしたことない味のフワを飲む。フワでも新茶は新茶に違いない。
あおくさい茶畑。摘んだばかりの新芽。茶葉の天ぷら。茶葉の佃煮。伸び放題に近くなった垣根の茶。排気ダクトから吹き出す緑の粉。床にこぼれたゴミ茶。荒茶。二束三文のフワ。どこか(主に東京)の誰かが飲むであろう高級なみる芽新茶。そんなものがみんなみんな集まって、混ざり合って、あたりにみちみちる。この香りと茶と茶畑と茶工場を愛して、七十過ぎても茶工場で働いた私の祖父は、新茶の季節に亡くなった。それからというもの、私の新茶の季節にはひとすじの新たな香りが加わった。これからさきにも、私の新茶の季節には、またいろいろな香りが付け足されてゆくのだろう。
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