新茶の季節<散文編>/佐々宝砂
 
静岡に生まれて静岡に育ったから、新茶の香りが漂ってこないと初夏がきたような気がしない。ちなみに新茶の香りは茶畑の香りではない。茶畑そのものは、あまり新茶らしい香りを持たない。まあ少しは香る。私の実家では茶の木を垣根にしていて、新茶の季節になると食卓に茶葉の天ぷらが出た。今住んでいる家にも茶の木が一本ある。この季節には新芽を摘んで、天ぷらにしたり、茶の佃煮にしたりする。

高校生のころまでは、祖父母と両親とお茶摘みをした。祖母がよく「摘まなきゃ茶にならない」と言った、なるほどそりゃそうだ。摘まないお茶は香らない。摘んだとたん、お茶は魔法のように新芽の香りを放ち出す。みる芽(未熟な若芽)を手摘みに
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