バケツ/村木正成
バケツを持って浜辺に向かい
バケツでそっと盗み出す
目の前に広がる海を
バケツでそっと盗み出す
頭上に浮かんだ夕焼けも
バケツでそっと盗み出す
帰り道の一面の青麦も
バケツでそっと盗み出す
空に拡がる星空を
バケツでそっと盗み出す
ついでにみんなの悲しみも
盗んでやろうとするけれど
みんなの悲しみは深すぎて
バケツじゃ盗めないのです
それならみんなの苦しみを
盗んでやろうとするけれど
みんなの苦しみは重すぎて
バケツじゃ盗めないのです
バケツで盗めないものは
人の心のなかにあり
人の心は広く深く
それを受け入れているのです
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