惚れたがサイゴ/朽木 裕
一日のうちに「馬鹿」を一生分連呼したかと思えば
一晩の3/4「怖い」と脅えてすすり泣く
まったくもって理解不能な人間−自分。
カミソリより冷たく痛々しく冴えてくる頭は
どう考えたって眠れるわけもなく
暗闇のなか冷蔵庫と呼応する
自分を悪者にすれば生きやすいので
逃げ道探すも思考が迷子
人に対して怒るのは酷く面倒で憂鬱
心の底から愛していなきゃ頼まれてもしない 疲れるから
でも現状フィードバック
あきらかに怒っている自分がいるのは
心音 血管 目つきの悪さ
均衡失って自虐起爆装置寸前のカミソリと熱湯
これだけ揃っていればすぐに分かる
つまり困ったことに私はホントの本気で惚れているのだ
怒ることに20年余不慣れだった私の感情を
ぐらぐら揺らす目下の恋人が少々憎い今日この頃
高いびきの鼻をつまんで
キスで口を塞いでみたりするのである
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