一人遊び/松本 卓也
どれだけ昔だったかと
思い出せはしないのだけど
眠れない夜を過ごす事が
とても珍しくなったこの頃
ささやかに降る雨にさえ
怯えていた遠い日を思う
今が充実しているかと
あの頃に呼びかけられたら
何の迷いもなく答えるだろう
年をとったことを除いて
どう違うのかは分らない
ただ経験と比較の無い空想と
幾度かの温もりを知って
その上で噛み締める今が
我ながら愛おしくもある
そうだ 雨音に合わせて手を叩き
無限小の間隔で切り取られていく
思い出と現実を戯れに並べようか
少しは暇もつぶれるだろう
少しは孤独も紛れるだろう
この夜を過ごすのに必要なものは
何も酒だけとは限らない
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