新茶の季節<真夜中編>/佐々宝砂
 
玄関を開けると ふっ と
新茶が香る
こんな深夜にも
茶工場はフル操業中で
その明かりだけが夜目に眩しい

工場の前を過ぎる
明かりが背後に遠ざかる
街灯のない土手の草むらで
気の早いコオロギが鳴いている
立夏過ぎだけれど
蛍にはまだ早い

ほらもうすこし歩くと右手に墓場だよ
もうすっかり葉桜になった八重桜
遠くのパチンコ屋の明かりが透ける
足下にはたくさんのワラビ ノビル
墓場の山菜なんて誰もとらないから
伸び放題で

急ぎ足でとっとと歩く
実はちょーっと怖い

田んぼのあぜみち通って
国道越えて
いつものコンビニエンスストア
なんとその明かり
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