就職/深雪
「働くホームレスになる」なんて
半年前には冗談交じりで言っていた
無精ヒゲに長い髪がよく似合う
黒猫を抱いた横顔が
少し悪びれてて好きだった
そんなあなたの髪が短くなって
三月、白木蓮の花びらが
今年も一枚一枚 冷たい雨と共に散り
いつもより少し早い桜が
月日を儚く折りたたむように過ぎ
いつの間にか青々とした風景に変わって行った
追いつけなかった私は
泣くことをこらえて必死であなたの傍にいたけど
何も言ってくれなくなったあなたに
「さよなら」って言えなくて
やっと今「おめでとう」と言ってあげる
背筋を伸ばして微笑むあなた
腕の中にいた黒猫が
真面目な顔をしてするりと逃げて行った
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