初夏の森には秋の風/佐々宝砂
単にうざったいだけだろう?
私もそうだがモミの木にとったってきっとそうなのだ
美しい明治の女はすでに亡いが
ハーンが描いたのと同じ虫が
草雲雀という美しい名前の虫がじきに鳴き始めるだろう
森で
私の庭で
子孫を残すために切々と鳴き始めるだろう
あいつらだってあいつらなりに忙しいので
私の思いなど託せはしない
初夏の森には秋の風
夢をなくしてしまおうとも
諦めることを学ぼうとも
何ひとつ見えないまま過ごそうとも
また夏がくる
夏のはじめは
どうしてこんなにも秋に似ているのか
こんにちはとさようならを
同じ言葉であらわす言語みたいに
夏がやってくる
戻る 編 削 Point(18)