ある電話/I.Yamaguchi
 
彼女の頭から腕を抜くと、マキの左腕が当たっていた脇腹には汗がついた。彼女は、なぜかいつも体を火照らせながら、空気のある場所を求めて、僕と逆のほうを向いているのだった。
 深夜に厨房に立ったとき、自分の手首の意外に白いことに気づかされたのは、彼女と付き合ってから四ヶ月ほどたったころだった。もともと僕はどちらかというと白いほうで、腕がサークルの女の先輩よりも細いのが時々気になっていた。
 切った血が止まらない、と電話で聞いたとき、僕は白い手首が親指のほうから一筋斜めに切りさかれ、そこから肘のほうに幾筋もの血が伝って、流れの終りの方で丸く血が膨らんでいるのを想像して、彼女の、きれい、という言葉にうな
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