ね/恋月 ぴの
 
ねえ、ねえ、ねえ、

ねえってば

こんな感じに甘えたのは
あなただけ

生きることの大切さと
初夏の清清しさを教えてくれた
忘れられない優しい笑顔

こねこのように
ベッドの上で丸くなって
あの頃のふたりに戻りたくて

ぜんまい仕掛けのブリキのおもちゃ
背中の螺子を巻いてあげれば

辛かった事
悲しかった事
そんなことなんてあったっけ
何事も無かったかのように
ぱたぱたぱたぱた
無邪気に動いて

泣いてなんかいないよ

ちょっと眠くなって
大きなあくびをしただけなのに

人差し指でそっと拭った涙は
ふたりで過ごした思い出の味がして

ねえ、ねえ、ねえ、

ねえってば

あのね

それでね


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