追憶演技/楢山孝介
 
拍子に雪崩れていった自転車を
ぶつぶつ言いながら起こしたいだとか
そんな日々に戻りたいなんて気持ちはさらさらないのに
あの頃は色々不便で
街は汚くて物騒だったけど
人々の気持ちはあったかくて
今の時代にはない良さがあったね
なんて語りたがっている

時折自分の記憶の中にある過去の街を
爆撃で壊したくなることがある
洪水で流したくなることがある
劇的な過去を創り出したくなる

昔は少し街の中心部を離れると
何十匹もの野良犬に囲まれていた気がする
ここのところ注意して探しているのだけれど
彼らの姿は一匹も見つけられないでいる
セピア色の過去は演出過剰になりたがる
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